開業・法人化

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医療法人における理事長貸付金について、お尋ねします。
現在、医療法人(19床以下の診療所)の認可申請中ですが、個人事業開始より約1年半ということもあり、また、県の指導もあり、2カ月の運転資金を基金拠出することにより理事長貸付金が生じてしまいます。医療法第54条を根拠に貸付金については「剰余金の配当とみなす」とされていますが、今後決算後に県に提出する事業報告書の財産目録および貸借対照表には、一切貸付金の科目記載はないものと思います(その他の資産に含まれるため)。県担当者は何をみて貸付金の有無を判断するのでしょうか? ご教示いただければ幸いです。

このケースは、設立時に「資産<負債」となり、事実上、個人(医師等)医療事業時の借入金の引き継ぎになると思われます。
医療法人の新設について、2017(平成19)年の第5次医療法改正で社団医療法人の新規設立時は、出資持分のない医療法人しか認められないのはご承知のとおりですが、「医療法人制度について」(平成19年3月30日医政発第0330049号、最終改正:平成31年3月29日)の「6 医療法人の資産要件の見直しについて」で、次のように規定しています。

6 医療法人の資産要件の見直しについて
(1)規則第30の34の規定は、医療法人の資産要件として定められてきた自己資本比率に関する要件を廃止することとし、病院等を開設する医療法人は、開設する病院等に必要な施設、設備又は資金を有しなければならないものとしたこと。
(2)医療法人の施設又は設備は法人が所有するものであることが望ましいが、賃貸借契約による場合でも当該契約が長期間にわたるもので、かつ、確実なものであると認められる場合には、その設立を認可して差し支えないこと。
 ただし、土地、建物を医療法人の理事長又はその親族等以外の第三者から賃貸する場合には、当該土地、建物について賃貸借登記をすることが望ましいこと。
 また、借地借家法(平成3年10月4日法律第90号)に基づき、土地、建物の所有権を取得した者に対する対抗要件を具備した場合は、賃貸借登記がなくても、当該土地、建物の賃貸借を認めても差し支えないこと。
 なお、賃貸料については、近隣の土地、建物等の賃貸料と比較して著しく高額なものである場合には、法第54条(剰余金配当の禁止)の規定に抵触するおそれがあるので留意されたいこと。
(3)医療法人の設立を認可するに当たって、一定期間の医療施設の経営実績を要件とすることは望ましくないこと。
  なお、新たに医療施設を開設するために医療法人を設立する場合には、2か月以上の運転資金を有していることが望ましいこと。
(4)医療法人の設立に際して、現物拠出又は寄附すべき財産が医療法人に不可欠のものであるときは、その財産の取得又は拡充のために生じた負債は、当該医療法人の負債として取り扱って差し支えないこと。
  ただし、負債が財産の従前の所有者が当然負うべきもの又は医療法人の健全な管理運営に支障を来すおそれのあるものである場合には、医療法人の負債として認めることは適当ではないので、設立の認可に当たっては十分留意されたいこと。

この規定のように、設立時の資産要件はかなり細かく定められ、(3)なお書の2カ月以上の運転資金を要求されます。したがって、個人診療所の運転資金や消耗品等に係る借入金が多い場合の法人成りのケースでは、当該負債は引き継がず、個人で返済しなければ法人設立は難しいと考えます。なお、(4)についての、設立時・現物出資財産(譲渡所得・対応)は借入金との「紐付き」で登記簿謄本が厳しくチェックされますので、ご注意ください。

医療法人の設立申請の前に、個人診療所の借入金の減少と2カ月分の運転資金が確保できるような収支、財務構造改善のコンサルティングが必要でしょう。具体的には、医師個人等の個人財産の見直し(不要不動産の処分、貸付金の回収等のほか、収支改善の処置)とともに、新設法人は出資持分なしの基金拠出型医療法人になるはずです。
基金は、純資産の部に計上される長期劣後債務であり、拠出(出資ではない)者は、院長(理事長)予定の個人(県・主務課から2分の1以上を拠出するよう指導があり得ます)のほか、家族、親戚、会社を加えることも可能ですが、会社については利息なしであり、会社法上の問題が生じる可能性もあります。当初、事業規模をなるべく小さくするなど改善処置を検討する必要がありそうです。

医療法第54条は、「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と規定しているものの、貸付金によるみなし配当禁止は規定しておらず、解釈等によるものと思われます。医療法人会計基準や病院会計準則にも「貸付金」は示されていて、貸付金が福利厚生等により発生することはあり得ますが、理事会承認により制定された全役職員を対象とした貸付に関する規程(細則)等に沿った処置が必要です(「医療法人の業務範囲」平成4年2月22日現在、II.附帯業務 留意事項)。
ただし、ご相談のケースは法人の新設であり、都道府県主務課担当官は「資産<負債」となるケースを日常的に扱っているため、「理事長貸付金」とすべきところを「その他の資産」に計上している「仮装」(?)を見破ったものと思われます。先に示した改善処置を行い再提出すべきと考えます。

毎年度提出する決算後の事業報告書等では貸付金の科目記載はないため、担当官も貸付金の有無は確認できませんが、定款変更認可申請(診療所開設、移転、附帯業務開設など)をする際に提出書類として勘定科目内訳書の提出を求められることがあります(例:東京都は必須)。その際、役員への貸付金がある場合は是正指導が入り、その解消が必要となります。解消できなければ計画的に定款変更認可が得られないなど、適正な法人運営に支障が出る可能性があります。

回答日【2022.10.24】

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