事業承継・持分なし移行
-
持分の定めのある医療法人が出資者から出資持分の放棄を受けて、持分の定めのない医療法人へ移行する場合において、相続税法66条第4項により当該法人を個人とみなして課税される贈与税の額について、相続税法第66条第5項の適用により、相続税法施行令第33条第1項1号および第2号に掲げる法人税等の相当額を贈与税額から控除することができますでしょうか。
法人税法施行令
第136条の4第2項
社団である医療法人で持分の定めのあるものが持分の定めのない医療法人となる場合において、持分の全部又は一部の払戻しをしなかったとき、その払戻しをしなかったことにより生ずる利益の額は、その医療法人の各事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入される。
また、法人税法第38条第2項第1号により医療法人に対して贈与税が課税され、納付を行った場合においても、その贈与額は医療法人の所得金額の計算上損金の額に算入しないことになります。
医療法人の所得金額の計算上、個人からの受贈益および納付した贈与税が、益金にも損金にも算入されないことから、医療法人は当該贈与を受けても所得金額の計算上影響するものは何もないことになりますので、相続税法第66条第5項の適用はないものと考えています。
しかし、2008(平成20)年4月の税制改正で、法人税との調整規定として法人税と贈与税の税負担が二重に生じるため、贈与税額から法人税等に相当する額を控除するとされている相続税法第66条第5項の適用ができるのと、できないのとでは、納付する贈与税の額に大きく影響してきます。
相続税法第66条第5項の適用により、相続税法施行令第33条第1項第1号および第2号に掲げる法人税等の相当する額を贈与税額から控除することができますでしょうか。できるとした場合、みなし税額の具体的な計算はどのように行うのでしょうか。 -
ご質問の件につきまして、まず法令を明らかにしましょう。
相続税法第66条は、次のように規定しています。
(人格のない社団又は財団等に対する課税)
第六十六条 代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、当該社団又は財団を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。この場合においては、贈与により取得した財産について、当該贈与をした者の異なるごとに、当該贈与をした者の各一人のみから財産を取得したものとみなして算出した場合の贈与税額の合計額をもつて当該社団又は財団の納付すべき贈与税額とする。
2 前項の規定は、同項に規定する社団又は財団を設立するために財産の提供があつた場合について準用する。
3 前二項の場合において、第一条の三又は第一条の四の規定の適用については、第一項に規定する社団又は財団の住所は、その主たる営業所又は事務所の所在地にあるものとみなす。
4 前三項の規定は、持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて準用する。この場合において、第一項中「代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団」とあるのは「持分の定めのない法人」と、「当該社団又は財団」とあるのは「当該法人」と、第二項及び第三項中「社団又は財団」とあるのは「持分の定めのない法人」と読み替えるものとする。
5 第一項(第二項において準用する場合を含む。)又は前項の規定の適用がある場合において、これらの規定により第一項若しくは第二項の社団若しくは財団又は前項の持分の定めのない法人に課される贈与税又は相続税の額については、政令で定めるところにより、これらの社団若しくは財団又は持分の定めのない法人に課されるべき法人税その他の税の額に相当する額を控除する。
6 第四項の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるか否かの判定その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。「相続税等が不当に減少する結果」の基準を、政令(相続税法施行令第33条第3項)で、次のように定めています。
3 贈与又は遺贈により財産を取得した法第六十五条第一項に規定する持分の定めのない法人が、次に掲げる要件の全てを満たすときは、法第六十六条第四項の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められないものとする。
一 その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その役員等のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも三分の一以下とする旨の定めがあること。
イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持しているもの
ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの
ニ 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員((1)において「会社役員」という。)又は使用人である者
(1)当該親族関係を有する役員等が会社役員となつている他の法人
(2)当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第二条第十号 に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人
二 当該法人に財産の贈与若しくは遺贈をした者、当該法人の設立者、社員若しくは役員等又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。
三 その寄附行為、定款又は規則において、当該法人が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属する旨の定めがあること。
四 当該法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して記録又は記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと。さらに「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」という法令解釈通知が発出されています。
さて、本論に入りますが、重大な前提があります。
出資持分の放棄をして持分なし医療法人に移行した場合、次のような取引の会計処理をし、「資本等取引」と認識されています。
(資本金) ××× (資本剰余金) ×××
(利益剰余金) ×××
ただし、これは相続税法施行令第33条第3項等の要件をすべて満たす(非課税移行)のケースであり、一部放棄の場合、残った出資者にみなし贈与税が課税され、出資金額の移動が個人間でなされ、法人の会計は影響されません。
非課税要件を満たさない全部放棄は、当該医療法人を個人とみなして、みなし贈与税が課され、当該法人が贈与税申告をします。
一方で、法人税法施行令第136条の4第2項では、次のように規定され、法人税課税が生じる余地はなく、贈与税(相続税法)で処理されます。したがって、ご質問のようなことは起こり得ません。法人税法施行令
第百三十六条の四 医療法人がその設立について贈与又は遺贈を受けた金銭の額又は金銭以外の資産の価額は、その医療法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。
2 社団である医療法人で持分の定めのあるものが持分の定めのない医療法人となる場合において、持分の全部又は一部の払戻しをしなかつたときは、その払戻しをしなかつたことにより生ずる利益の額は、その医療法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。回答日【2014.2.8】